フランス退屈日記

9月から始まったフランス留学でのあれこれ。旅と生活の記録。

In her shoes

日本に帰国してからテレビをよく見るようになった。それも昼間から夜にかけては出かけたりしていることが多く、加えて時差ボケが治らないために早朝にテレビをつけているので、自然と朝のニュース番組をよく見ている。

 

ネットニュースやSNSの恩恵を受けて、フランスにいた10ヶ月も日本社会から取り残されたと感じることはなかったが、朝のニュースから昼前のワイドショーまでずっと見ていると、高齢者の運転や切りつけの事件などなど、知らないことばかりであることに気づく。

せっかく日本に帰ってきたのに取り残されてはいけないと、コンビニに立ち寄って新聞を買ってみる。それも2紙だ。新聞社にはそれぞれの見方があるから、バイアスのかかった知識にならないように新聞は複数読むべきだと、高校の社会科の先生が言っていた気がする。

 

大きな声では言えないが政治や経済には疎いので、読んでも入ってこない記事は多い。しかし、気になるニュースがあった。

女性のハイヒール問題である。

 

要は、「女性のマナー」としてハイヒールやパンプスの着用が職場で強制されるべきか否かという論争である。

この論争は国会でも話題にのぼり、企業が女性のみに特定の靴の着用を強制することはハラスメントに当たるという主張に対し、”社会通念に照らして業務上必要な範囲を超えた場合は”という条件付きで、パワハラに当たる可能性が言及されたらしい。社会通念とは一体何か。

 

つい1週間前までいたフランスの女性を思い出してみると、「女性だけに」というマナーは思いつかない。特に男性と女性だけではなく、性自認の多様性に対して寛容なフランス社会においては、女性というだけでカテゴライズすること自体日本に比べると難しいのだろうし、そもそもろくに制服もなく、元から肌の色も言語も体型も違うあの国で、皆が同じであるようにすることなど不可能で意味がないとわかっているのではないだろうか。

 

フランスの大学で受けた日本社会についての授業で、日本の就活制度が取り上げられたことを思い出す。フランスでは在学中にインターンをする学生はいるが、一般的に仕事探しは大学卒業後に行われ、明確なスケジュールも決まりもない。履歴書の形式だってそれぞれが自由に作るのだ。最も印象に残っているのは、就活の話題の中で就活スーツなるものが紹介されたときのことだ。先生は「就活スーツ」の文字が踊るスーツメーカーのチラシをスライドにうつした。

それを見たフランス人学生の驚きの混じった「よくわからない」という反応がおもろかったのを覚えている。

  • それぞれの性格や能力、”個”をアピールしなければならない就職活動の場で、同じ服を着ることは矛盾しないか
  • フォーマルな雰囲気に合わせることは重要だろうが、靴や髪型、メイクまで決めることにはどんな意味があるのか
  • そして、なぜ女性のパンツスーツが「就活スーツ」に入っていないのか、と言った質問が次々に上がった。

それらの鋭い質問に、それがマナーだから、そういうものだから、以外の回答を用意できないのは私だけではないはずだ。

 

そんなフランスから帰ってくる飛行機の中で、キャメロンディアスが主演の「In her shoes」という映画をみた。あることがきっかけで仲違いしてしまった姉妹が、不器用ながら自分ににあう生き方を見つけ、人生に希望を見出していくという話なのだが、タイトルの「In her shoes」は彼女の靴を履く、すなわち彼女の立場にたってみる、ということだ。

 

他者の靴を履いて見て初めて、自分との境遇の違いがわかることもある。#Metooと靴を履く苦痛をもじった#Kutoo運動や、女性へのヒール着用の強制を禁止する法律を作る試み等がなされているようであるが、そんなものがなくても、ヒールを履いてみれば、相手の立場に立って考えてみれば、多方面にとって幸福な結末に落ち着けるのではないだろうか。